『1. 所有の基礎理論』というスライド内で所有のメリットが記載されており、そこには「所有のシステムが生まれて初めて生産が、従ってまた労働が社会的労働として安定的に営まれる」とされている。しかし次項で「労働により社会が形成され、社会により所有が形成される」とされていることや、所有基礎論の現実的根拠などから順序に矛盾があると思わる。そのため労働→社会→所有という流れであっているのか?表現については一部,変更しました。

そのため労働→社会→所有という流れであっているのか

合っています。「所有によって労働は媒介される(まとめ)」のスライドをご覧下さい。以下のように書かれている通りです。

  • ひとたび労働が所有のシステムを生みだすと,労働は所有のシステムを前提し,また所有のシステムによって媒介される。
  • 既に見たように,所有のシステムによって,労働が,したがってまた生産・消費も安定し,発展する。

順序に矛盾があると思われる。

矛盾していません。例えば,板を削るという労働を考えてみます。ナイフで板を削るところから出発してみましょう。やがてはナイフでは不便なのでナイフを台にくっつけて,カンナという新しい道具が生まれるでしょう。この場合に,板を削るという労働がカンナを生み出したのです。もちろん,決して,カンナが,板を削るという労働を生み出したのではありません。そして:

  • ひとたび板削り労働がカンナを生み出すと,板削り労働はカンナを前提し,またカンナによって媒介される【つまり,もう以前のような不便な,ナイフを使う板削り労働に戻ることはできない】。
  • ……カンナによって,板削り労働が……安定し,発展する【正確に,しかも大量に板を削ることができるようになる】

──というわけです。

『1. 所有の基礎理論』でも強調しましたが,現実の社会は諸要因の相互的関連の世界,諸契機の相互的依存の世界なのです。それにもかかわらず,社会は質的に発展します。ですから,この相互的関連・相互的依存の世界の中から,発展を生み出す原因はどこなのか,確定する必要があるのです。つまり,現実の社会では,労働が所有を前提し,所有が労働を前提しています。この相互的関連・相互的依存の中から,この講義は,労働こそが原因であり,原動力であると考えるわけです。

この点については,『2014年09月30日の講義内容についての質問への回答』の「17. 労働・所有・社会の3つは互いに関連し合っているのか,それとも労働→社会→所有というように関連しているのか?」をも参照してください。