質問と回答

限界の露出に関して,まだよく理解できなかった。市場社会において活動する限り,私的所有者,すなわち株主は必要であると説明があり,そのこと自体は理解できた。ただ,その中で,市場社会において活動する社団法人と,またそれに対比して財団法人を挙げて説明されていたが,そもそもの違いがハッキリとわからず,その説明内容も理解できなかった。〔……〕財団法人が利潤追求に適してないことなどの理由が気になった。

財団法人と社団法人との違いそれ自体が重要なのではありません。営利社団法人である株式会社と非営利の財団法人との違いが,要するに,営利と非営利との違いが重要なのです。社団法人の中には営利社団法人である株式会社だけではなく,非営利の社団法人もあります。非営利のものとして,社団法人ではなく財団法人を挙げたのは,具体例として教育機関や医療機関を挙げたからです(例えば,私立学校は学校法人ですが,これは一種の財団法人です)。

通常の説明では,特定目的の下にひと(人格)が集まって形成されるのが社団法人であり,もの(物件)が集まって形成されるのが財団法人である,なんて風に説明されますが,この講義ではあまり意味を持ちません。営利社団法人である株式会社は,人格(この場合には資本家)の集まりによって形成された物件(この場合には資本)の集まりだからです。還元すると,単なる資本家結合ではなく,資本家結合によって成立する資本結合が株式会社だからです。株式会社の本質は資本家結合ですが,この人格結合は歌を歌うために集まったのでもなければ将棋を指すために集まったのでもなく,営利事業をおこなうために集まったのであって,要するに私的所有の制限を克服して社会から巨額の資本を集めるために集まっているわけです。

というわけで,営利/非営利という対立軸で考えると,財団法人が利潤追求に適してないのは,そもそも財団法人が物件の集まりをなすのは,寄付によるからです(要するに非営利だからです)。ビッグビジネスを行おうとすると,例えばグローバル市場で勝負できる自動車メーカーをつくろうとすると,初期投資のために巨額の貨幣が必要になります。この巨額の貨幣を寄付で賄うというのは,現時点のシステム,すなわち資本主義的なシステムを前提する限り,かなり困難です。いや,たとえ奇特な大金持ちがそういうことを行ったとしても,それがビジネスの基準になるほど,今日の経済は営利性を脱却していません。

ただしまた,これは今日のシステムを前提すれば,の話です。そして,今日のシステムは,少なくとも一面では,営利性からの脱却の方向をもまた,示しています。

専門的経営者が非人格的に振る舞う,これはサラリーマンと同じ,という点がイマイチ,理解できなかった。

ここでは,「人格的に振る舞う」=生産手段に対して自分の所有物に対する仕方で振る舞う,「非人格的に振る舞う」=生産手段に対して他人の所有物に対する仕方で振る舞うと考えて下さい。会社の工場,会社のオフィスは,会社の私的所有物であって,専門的経営者の私的所有物でないのはヒラのサラリーマンの私的所有物でないのと同じです。

専門的経営者は〔……〕利潤の原理に基づかない賃金を得ているが,どうしてそこまでの高給を得ていても,株式会社が成り立つのか?

利潤の原理に基づかないというのは,正しくは,賃金の原理に基づかない(利潤からの控除である)ということですね。単純に,会社が高い利潤を上げており,その結果として高配当をだしている,および/あるいは株価が上昇しているからです。実際に,アメリカの金融系のCEOはとんでもない高給を獲得していましたが,リーマンショックで業績が悪化すると,やはり株主総会で低下圧力が生まれました。

株主の意向が必然的に採用されて,現場の当事者側の意見は通らないのでは?

基本的に,この講義では大規模公開株式会社を想定しています。この場合に,株主の多数意見なんて株主総会の時にしか反映されませんし,ましてや個々の株主の意向は採用されません。もちろん,実際の株式会社,特に小規模の非公開会社の中には,支配的大株主が日常の経営にタッチしていないのにもかかわらず,好き勝手に現場介入するということもありえるでしょう。

機能資本が企業の売り上げとの結果と密接に結び付いていると考えていいのか?

その通りです。売り上げは貨幣形態で計上されますが,これは,現実資本(実物資本)から分離している限りでの貨幣資本(擬制資本としての株式を含む)ではありません。

株式会社が成立した理由の物件を人格から独立させるためというところがよくわからなかった。

個人的な資本家の人格から独立させると考えて下さい。およそ会社は,資本という物件を,個人的な資本家という人格が持っている私的所有物という制限から解放して,多数の資本家を集めることに基づいています。

現代の日本企業だと経営者=資本家という事例も少なくないと思う。

そういう場合もあります。特に,小企業ではそのような株式会社(なんちゃって株式会社)も多いでしょう。しかし,大多数の代表的な大企業の場合には,例えば現在,創業者一族が社長に復帰しているトヨタでさえ,社長は支配的な大株主ではありません。

〔本来の意味での〕ボーナスの意義に関して,「賃金と言うよりは利潤からの控除」という内容があったと思うのだが,「利潤からの控除」の意味があまり理解できなかった。

賃金は,業績給をも含めて,費用であって,会社の業績が悪かったら出さなくても良いというものではありません。会社の業績が悪くても,買った原料代を支払わなければならないのと同様に,買った労働力の価格をも支払わなければなりません。そして,もしあらかじめ“これこれの業績を挙げたらこれこれの業績給を支払う”という契約があるならば,会社が赤字であろうと,その業績給は支払わなければなりません。

本来の意味でのボーナス,賞与は,会社の業績が良かった時に出て,会社の業績が悪かった時にはでないものです。と言うことは,賞与は,利潤からの控除だ,利潤がでた場合に限りその一部分を背負うよとして分配しているのだ,と考えることができるわけです。

飲食店などで見かける“店長募集”というのは一応,店舗の専門的経営者ということになるのか? また,自営業で,自宅を店としている場合は機能資本家ということなのか?

フランチャイズの募集ではなく,飲食店運営会社が自ら運営している店舗の店長を募集しているのである限りでは,それは管理職の募集ということになります。但し,しばしば,そう言う店長はなんちゃって店長であって,事実上はヒラの従業員であるのに,労働法の網をすり抜けるために形式上店長にして残業とかさせやすくしているということがあるというのは,現在,問題になっているとおりです。なお,この講義で,「専門的経営者」という時には,取締役を想定しています。あなたの例で言うと,飲食店運営会社が運営する店舗の雇われ店長ではなく,飲食店運営会社自体の重役がこれに相当します。

自営業者は自営業者です。自営業者は,自ら管理労働(経営労働)を行っているという意味では機能資本家の性格を持ち,自ら直接的労働(管理労働ではなく現場の労働)を行っているという意味では労働者の性格を持っていますが,それ自身としては,資本家でも賃金労働者でもなく,あくまでも自営業者です。

経営者が資本家ではない理由説明の1つ目について,専門的経営者は過半数の株を所有することが一般的に不可能であるから,資本家にはならないという説明は間違いか?

うーん,スライドの書き方が悪かったのでしょうか。特に疑問になるような箇所はないと思うのですが。専門的経営者=《株式を所有しておらず,その能力によって会社に雇われた経営者》ということを先ず押さえてください。

  1. 大規模公開株式会社において,このような株式を所有していない経営者が,自分を雇っている会社の株式の比較的に少数を取得するというのはよくある話です。しかし,自分の役員報酬で(あるいは銀行から金を借りてでもいいですが)過半数株式を買い取ることは困難です。

  2. 次の項目の「この場合の専門的経営者」というのは,株式を比較的に少数,取得している専門的経営者のことです。しかるに,「過半数株式を買い取」った専門的経営者のことではありません。そうすると,このような,「株式を比較的に少数,取得している専門的経営者」は,少数ではあっても株式を所有している以上,またその限りでは,資本家の性格を持ちます。しかし,この専門的経営者が経営者として会社に雇われているのは,ケチな額の株式を所有しているからでは決してなく(株主総会には全然影響をおよぼすことができないような資本家であるからでは決してなく),その能力等が認められたからです。

日本の傾向として,株式会社に貨幣が集中しているとあったが,他国では貨幣は分散しているのか? アメリカは日本よりも株式投資が活発におこなわれている印象があるが,貨幣はどのような動きをしているのか?

日本だろうとアメリカだろうとEUだろうと株式会社に貨幣が集中しています。この場合の株式会社というのは,擬制資本としてのそれではなく,現実資本(実物資本)としてのそれです。要するに,○○株式会社の発行済み株式時価総額のことではなく,○○株式会社の総資本のことです。

貨幣はどのような動きをしているのか?という質問については,抽象的でちょっと答えられません。株式保有のかなりの部分を占めている年金基金について言うと,働いている人たちの貨幣が,年金基金によって集められて,直接に,あるいはヘッジファンド等の他のファンドを通じて,株式の購入に向かいます。

経営者は自分の(プライベート)の仕事を部下にやらせることはできない。また会社のものをもらってはいけない。この2つは実際に守られていないこともあるんじゃないかと思った。

その通りです。これは会社の私物化であり,私的所有のコントロールが効いていない株式会社のシステムにおいては生じざるを得ないものです。この問題を,この講義は,株式会社の無責任体制という形で問題にしてます。

実際は銀行から借りずに株式を発行して会社をたてることはできないのか?

当然に,できます。