1. 注意事項


2. 詳細

以下のすべての問題に答えよ。その際に,どこまでがどの問題の解答なのか,わかるように,必ず解答用紙に解答番号を明記すること。

[1](労働と所有)

問題

所有と労働との関係について,所有基礎論との比較において,また具体例を挙げて ,労働一元論を説明せよ。

解答例

社会においては,諸契機は相互的依存の関係にある。従って,そもそも,どのような歴史的社会においても,労働のあり方は生産手段の所有関係を前提し,また生産手段の所有関係は労働のあり方を前提する。しかし,社会は生成・発展しているのであって,その根拠がどちらにあるのかということが理論的に問題になる。

〔両理論の比較;〕生産手段の所有関係が生産関係の規定を通じて労働のあり方を規定すると所有基礎論は考える。これに対して,労働のあり方が生産関係の規定を通じて生産集団の所有関係を規定すると労働一元論は考える。〔理由=一般的本質;〕と言うのも,そもそも所有関係は社会的意識を媒介にして成立するが,社会を形成するのは労働だからである。〔理由=現代市場社会の特殊的形態;〕このことは現代市場社会において明確になっている。と言うのも,現代市場社会において,労働そのものと,交換における生産物の所持の社会的承認とが時間的にも空間的にも分裂し,後者は前者の結果として生じるからである。

例えば,……〔具体例については省略〕

チェックポイント
  • 理論
    • 理由=一般的本質(6点)
    • 理由=現代市場社会の特殊的形態(4点)
    • 両理論の比較(4点)
  • 具体例(4点)

[2](利潤率均等化と銀行制度)

問題

利潤率の均等化作用と私的所有と銀行制度との関係について説明せよ。(その際に,中央銀行の固有の役割は無視すること)

解答例

利潤率の均等化は部門間競争を引き起こし,部門間競争は生産手段・労働力の再配分を引き起こし,生産手段・労働力の再配分は貨幣の部門間移動によって媒介される。しかし,私的所有は原理的に見て自己労働に基づく個人的な私的所有であり,この原理によって貨幣の柔軟で迅速な部門間移動を,従ってまた利潤率の均等化作用を制限している。銀行制度は預金形態で社会の貨幣を集中し,また貸出を通じて預金形態で貨幣を創造する。それを通じて,銀行制度は貨幣の柔軟で迅速な部門間移動を,従ってまた利潤率の均等化作用を媒介し,こうして私的所有の制限を克服している。

チェックポイント
  • 利潤率均等化⇒現実資本再配分⇒部門間貨幣資本移動の必要性(5点)
  • 私的所有⇒排他的・個人主義的原理⇒量的制限⇒部門間貨幣資本移動の不可能性(5点)
  • 銀行制度⇒預金形態での貨幣資本の集中・創造⇒部門間貨幣資本移動の実現⇒私的所有制限の克服(5点)
  • 全体の関連(3点)

[3](世界市場形成と現実資本)

問題

これまでの多国籍企業と今日の超国籍企業(いわゆるグローバル企業)とについて必然的な形態を想定し,両者の違いについて,具体例を挙げて,説明せよ。(具体例は実在する企業の例でなくていい)。

解答例

これまでの多国籍企業の必然的形態は,独立した海外現地法人が資本所有と配当移転等を通じて本国の本社の元に結合しているというものであった。海外現地法人は独立した現地企業として現地で生産・販売を行っていた。

これに対して,今日の超国籍企業の必然的形態は,海外の現地企業が企業内貿易を通じて国際分業しながら本社の元に有機的に結合しているというものである。各現地法人はいまや自立性を失い,生産過程の各段階に応じて,専業化している。

例えば,……〔具体例については省略〕

チェックポイント
  • 理論的説明:10点
  • 具体例:8点
追記
  • グローバル企業のイメージは,一連のグループ企業の有機的全体がもはや国境の枠を越えてしまったような世界企業である。そのイメージを理論化していれば,講義の内容からずれていても零点にはしない。

  • 具体例と理論的説明が渾然一体となっている答案は減点。タックスヘイブンの問題を取り上げている答案はコスト削減追求のための企業内国際的分業の一形態なので,OK。

  • アウトソーシングや社内人員構成の多国籍化などを挙げる者もいた。恐らく冬季課題図書(『企業が「帝国化」する──アップル,マクドナルド,エクソン~新しい統治者たちの素顔──』(松井博著,アスキー・メディアワークス社,2013年02月))に影響された学生もいると思う。ただ,アウトソーシングそれ自体は,グローバル企業を特徴付ける非常に重要な特徴だが,グローバル企業に特有のものではない(この点は同書でも第35頁で言及されている)。


[4](株式会社理論史)

問題

以下はとある経営学者の著書からの引用である(出典は模範解答で明記する)。

年金基金〔……〕は,今や〔……〕大企業の支配的所有者である。〔……〕大手の年金基金が所有する株式,さらには中規模の年金基金が所有する株式でさえ,あまりに大きく,簡単に売却することなどできなくなっている。売却の相手は,他の年金基金たらざるをえない。

このような考え方は株式会社の発展のどのような段階を捉えたものか,そしてそれは何故にそう言えるのか,引用文中の語句を用いながら,説明せよ。

解答例

〔一般的傾向;〕このような考え方は,組織への株式集中という歴史的な一般的傾向を捉えている。〔特殊的形態;〕そして,この一般的傾向が,機関投資家への株式集中,しかも年金基金への株式集中という特殊的形態を取っているという歴史的現実を,このような考え方は捉えている。

何故にそう言えるかというと,……〔引用による証明は省略〕

チェックポイント
  • 理論的説明
    • 一般的傾向(5点)
    • 特殊的形態(5点)
  • 理由付け(説得的な引用)(8点)
出典

ドラッカー著『ポスト資本主義社会』(上田他訳,ダイヤモンド社,1993年)の第145~149頁。

追記
  • バーリ及びミーンズの《所有権と支配との分離》と混同している場合には,割と致命的なので4点減点。

  • 一般的傾向と特殊的形態との関連が明確でない場合には2~3点の減点。

  • 本当は,この引用文にはもう一つ重要なポイントがある。それは,経営者が株主の利益に反する行動を取った時に,年金基金が機関投資家として保有する株式はあまりに大きく,簡単に売却することなどできなくなっているから,年金基金は,分散個人株主とは異なって株式売却するのではなく,持続的に所有者として振る舞い続ける(例えば所有者として総会で経営陣を退陣させる,等)というインプリケーションである。この点は,年金基金による株式大量保有は労働者による生産手段所有に還元されるというドラッカーの主張にとっては重要な点である。しかし,この問題については,この講義は『ユシームの(機関)投資家資本主義』のところでこれを扱っている;ところが,今年度は時間が足りなかったために,これを講義内で扱うことができなかった;従って,これは試験範囲外になった。こういうわけで,模範解答にはここで述べた問題は含まれない。