1. 注意事項


2. 詳細

以下のすべての問題に答えよ。その際に,どこまでがどの問題の解答なのか,わかるように,必ず解答用紙に解答番号を明記すること。

[1](所有一般)

問題

交換過程における私的所有の正当性から,市場社会を正当化する社会的原理を導出して,具体例を挙げて説明せよ。

解答例

〔交換過程における私的所有の正当性:〕私的所有は交換過程における自由・平等な私的所有者同士の相互的承認によって正当化される。その内容は自己労働に基づく個人的な私的所有,すなわち労働と所有との一致,原因と結果との一致である。

〔交換過程から市場社会の導出:〕この交換過程の総体が市場社会である。

〔市場社会を正当化する社会的原理:〕そうである限り,市場社会は個人が,身分に関係なく平等に,誰の命令に従うのでもなく自分の自由な意志で自己責任で,頑張った(=労働)結果として報われる(=所有)社会として現れ,そしてこの現象において当事者たちによって正当化される。

〔具体例については省略〕

追記
  • 具体例については,なんでもいいから適当な交換の例を出して,そこから,普通に誰でも抱いている──前近代的共同体にくらべての──市場社会のすばらしさを例示してもらえばOK

  • 採点の結果として,具体例の導出が困難だったようなので,やや配点を少なめにした。

チェックポイント
  • 理論
    • 私的所有の正当性(7点)
    • 社会の正当性(7点)
  • 具体例(4点)

[2](貸付)

問題

信用と利子とをキーワードにして,設備投資資金の企業向け貸付と,消費者への略奪的貸付との典型的な違いを,具体例を挙げて説明せよ。

解答例

〔利子:〕設備投資は企業活動の一環である。企業活動は利潤を伴って定期的に売り上げを上げる活動である。従って,企業が企業として活動できている限りでは,利子付きで借入金を返済可能である。すなわち,この場合には,利子付きでの返済に信用がある。これに対して,消費者が消費目的のために借りる場合には,そもそも消費活動からは売り上げは上がらないし,ましてや利潤は期待されない。従って,消費者向け貸付はしばしば利子付きでの返済に対する信用の欠如を前提する。

〔信用:〕設備投資資金を借り入れる場合には,利子率は(この借入資本の)期待利潤率以下になる。従って,利子率は借入需要から見て低利にならざるをえない。〔もちろん低利には貸付供給からの視点もあるのだが,それはここでは問題にしなくてもいい〕。これに対して,消費者向け貸付の場合には,借入需要の側では,期待利潤率のような合理的な基準がない。また,そもそもハイリスクなのだからその分,貸付供給の側から見ても高利にならざるをえない。したがって,略奪的貸付のように,元本貸倒になっても利子収益と抵当巻き上げでペイするような,比較的に高利の貸付にならざるをえない。

〔具体例については省略〕

追記
  • 採点の結果として,具体例の導出が略奪的貸付に偏り,設備投資資金用の貸付については困難だったようなので,やや配点を少なめにした。

別解
  • 信用の有無を担保額の有無(あるいは大小)から導出した答案でも大目に見た。

    講義で強調したように,銀行による設備投資資金の企業向け貸付の場合には,なるほど長期かつ巨額だから有担保貸付が普通だが,これはあくまでも万が一の場合の保険であって,その基本は,そもそも返済できないような企業には長期巨額の貸付をしない──信用の客観性を保証するデータは,基本的に,ストックの資産構成よりも,フローの営業実績である──ということである。また,講義では,中世的高利貸しの現代的再現として略奪的貸付の例を取り上げたが,サブプライムローンのビデオで見たように,略奪的貸付の場合には,相手の無知につけ込み返済能力以上に貸し付けるということとともに,抵当不動産のまきあげを想定したものが多い。貸倒リスクが高い(信用が欠如している)からこそ,不動産抵当を設定するのである。要するに,同じく有担保貸出でも,担保は,優良企業への設備投資金の貸付の場合には最後の保険である(そもそも利子付きでの返済の信用が成立している)のに対して,ヤバイ消費者への貸付の場合には信用の欠如の表現である。

    ただし,これは私の設問にやや問題があったことは否めない。消費者向け貸付の典型として日本のサラ金なんかの場合の短期・小口の消費者向け貸付を想定する限り,短期・小口の消費者向け貸付の場合に無担保貸付が原則である。これによって,返済不可能時の回収可能性が低くなる。これに対して,長期・大口の企業向け貸付の場合には有担保貸付が原則になる。そして,この場合には,やはり担保の有無は──担保まきあげを想定していようといまいとも──信用の有無の客観的表現であるということは間違いない。

  • 利子の高低を貸付額の大小あるいは貸付期間の長短から(つまり貸し手側のコスト・リスクから)導出した答案でも少ない減点に留めた。ただし,こちらとしては,講義の内容上,設備投資のための借入の場合の借り手側(資本主義的営利企業)の需要が決定的なので,やはり(貸し手=供給側だけ書いてあって)ここにかすってもいない答案は減点せざるをえない。

  • 消費者向け貸付の場合の担保価値についての情報の非対称性(実際には担保価値が低いのを借り手側が隠す)について書かれた答案があった。しかし,少額の消費者向け貸付は基本的に無担保貸付である。

    もちろん,──一般に住宅ローンは個人への貸付の中では大口であるから,プライムであっても,抵当権を設定するのが原則だが──,略奪的貸付で問題になったサブプライムなんかは,有担保貸付(不動産抵当貸付)が基本である(それでも無担保貸付さえあったのだが)。その場合に,借り主が担保について不利な情報を明らかにしないということは一般論としてはありうるだろう。しかし,保険市場における人体の場合と違って,不動産貸付における不動産抵当の価値は貸し手がいくらでも実況見分可能である。そして,このような情報不足が略奪的貸付の場合の高利の主要原因かと言うと,それは無理があるだろう。隠されたリスクがあるから高利なのではなく,誰が見てもハイリスクだから高利なのである。略奪的貸付の場合に問題になる情報の非対称性としては,やはり,借入利子の仕組みの情報についての,借り手側の無知の方が大きいだろう。

  • “信用の有無”=“信用創造の有無”と考えた答案が複数あった。確かに銀行の貸し付けは信用創造をもたらす。しかし,それは自らの債務で貸し出すからであって(つまり預金で貸し出すからであって),借り手が消費者か企業かということには関係ない。実際にまた,銀行が個人に住宅ローンを貸し付ける時には,この講義で述べたような信用創造が行われるし,ノンバンクが企業向けにつなぎ資金を貸し付ける時には,この講義で述べたような信用創造は行われない。したがって,そのような答案は大幅に減点した。

チェックポイント
  • 理論
    • 信用(6点)
    • 利子(6点)
    • 両者の関連(2点)
  • 具体例(4点)

[3](株式会社その1)

問題

借入については無視する。個人企業,合名会社企業,大規模公開株式会社企業について,資本家からの資本の自立化,および貨幣資本の集中という観点から,それぞれを比較せよ。

解答例

単一の個人資本家が所有している個人企業に対して,会社企業の場合には複数の資本家がアソシエートして資本を所有している。各資本家は合名会社の場合には無限責任を負うのに対して,株式会社の場合には有限責任しか負わない。

〔資本の自立化:〕資本はもともと人格から自立化している物件だが,(1)個人企業の場合には,個人と資本とが一対一で対応しており,資本家個人と資本とが癒着している。これに対して,(2)合名会社企業の場合には,資本は形式的にも個人資本家とは別の存在をとっているが,まだ自立化は完成していない。資本家自身は無限責任を負っているから,たとえば倒産時には資本が資本家に還元される。これに対してまた,(2)株式会社企業の場合には,資本家としての株主は資本機能から,企業の内部から,完全に切り離されている。この意味で,資本は個人資本家からは完全に独立している。

〔貨幣資本の集中:〕(1)個人企業の場合には,貨幣資本は個人資本家の私的所有物の範囲内に限定されており,それを越えて他人の資本を集中することはない。これに対して,(2)合名会社企業の場合には,貨幣資本はすでに単一の個人の私的所有物に限定されていないが,社会から不特定多数の資本家が所有する貨幣資本を広く集中することができるような形態ではない;すなわち,他人の資本を集中するが,社会の資本を集中する形態ではない。これに対してまた,(3)株式会社企業の場合には,有限責任によって,さらにはまた市場での株式公開によって,多数の株主が集められる。これを通じて,ありとあらゆる人々が所有しているような,社会の貨幣資本が大規模に集中される。

追記
  • 事柄自体は常識でわかることなので,その常識をいかに理論的に整理するかが得点の分かれ目になる。

別解
  • 株式会社の自立化について,株式の転売可能性を強調した答案が複数あった。転売可能性は自立化そのものではないが,自立性を保証するものなので,正解とした。

  • 株式会社における貨幣資本の集中について,“株式会社は資金を市場で集める”とだけ書かれた答案が複数あったが,これは“社会から集める”にほぼ同義だと判断し,正解とした。

  • 合名会社と株式会社との違いについて,“資本家は合名会社では数人,株式会社では沢山”と書かれた答案が複数あった。理論的なタームではないが,現実の比喩としては上出来なので,甘めに採点した。

  • 特定個人株主への株式の集中と,株式会社への貨幣資本の集中とを混同している答案が複数あった。株式会社への貨幣資本の集中は特定個人への株式の集中の時期にも,不特定多数への株式の分散の時期にも当てはまる。いやむしろ,この場合には,分散こそが株式会社への集中を進めたファクターである。この点は重要な問題だから,このような混同がある答案は大幅に減点した。

チェックポイント
  • 自立化(9点)
  • 集中(9点)

[4](株式会社その2)

問題

バーリおよびミーンズの「所有権と支配との分離」論の特徴を,この講義の「所有と機能との分離」論と対比させながら,具体的に論じよ。

解答例

〔着眼点:〕(1)もともと資本家すなわち資本の私的所有者が企業経営者をも兼ねていた。その役割が分かれ,資本家と企業経営者とが別の人格に分離したてきたということに着目したのが「所有権と支配との分離」である。(2)これに対して,資本という物件は“金儲け”の機能を果たすものであるが,金儲けが市場で行われる限り,資本は必ず私的所有を必要とする。この資本という物件そのものの両契機の分離に着目したのが「所有と機能との分離」である。この立場は,この物件の両契機の分離を株式会社の本質的基盤として考え,そこから人格の分離をも人格と物件との対立をも導出する。

〔位置付け:〕(1)バーリおよびミーンズの「所有権と支配との分離は」株式の個人への分散という,株式会社の歴史的な特殊的段階に着目した議論であり,またその段階にのみ妥当するような特殊的現象である。(2)これに対して,この講義の「所有と機能との分離」は株式会社一般の,ひいては資本主義一般の本質である。すなわち,この立場は,資本主義の発展が所有と機能との分離を生み出し,所有と機能との分離が株式会社に帰結したと考える。

チェックポイント
  • 着眼点の違い(9点)
  • 位置付けの違い(9点)