このページは,立教大学 経済学部 政治経済学2の2014年度の定期試験(2015年01月27日実施)の模範解答のページです。
どの問題も,講義で説明したものばかりです。
論述問題の模範解答はベストの解答ってわけじゃありません。満点を取るための最低限の解答ってことです。
「この観点から採点した」とか「それほど高い点は付けない」とか「若干」とか「かなり」とか「大幅」とか,曖昧な表現が続きます。要するに,これは,形式上,同じ観点からの答案であっても,実際の答案内容に応じて採点が違ってくるということです。正解においてすら,同じチェックポイントをクリアしていても,その内容には回答間で大きな違いが生じます。不正解においては言うまでもありません。
以下のすべての問題に答えよ。その際に,どこまでがどの問題の解答なのか,わかるように,必ず解答用紙に解答番号を明記すること。
個人的な私的所有と,商品交換との対応関係について,具体例を挙げて説明せよ。
ヒント:両者が,歴史的には必ずしも一意的には対応し合わないという側面と,理論的には一定の条件の下で必然的に対応し合うという側面との両面を書くこと。
一方では,個人的な私的所有の成立は商品交換の成立を前提するとは限らない。例えば,……〔具体例については省略〕
他方では,商品交換の成立は個人的な私的所有の成立を前提するとは限らない。例えば,……〔具体例については省略〕
しかし,市場社会においては,商品交換と個人的な私的所有とは必然的に対応し合う。何故ならば,そこでは,一方では,生産物は商品として生産されており,したがって必然的に商品として交換されるからである。他方では,市場社会を構成する商品生産者は共同体から切り離された私的個人であり,このような私的個人は個人的な私的所有者として,生産手段に対して,また互いに対して振る舞うからである。例えば,……〔具体例については省略〕
非対応について書かれていない答案は問答無用で9点減点している(理論4点,具体例5点)。
模範解答は前近代社会のような例外が市場社会では存在しないというロジックで個人的な私的所有と商品交換との必然的な一致を説いている(つまり,生産物が総て商品として想定することができ,生産者が総て個人的な私的所有者として想定することができるのであれば,個人的な私的所有と商品交換とは必然的に一致する)。ここで,講義で導入した相互的承認のロジックを導入して説明するのももちろん正解である。
あと,非対応の例として,資本主義社会においては,事実上,個人的な私的所有が否定されてしまっているというロジックを使って書かれた,答案は若干の減点の上で正解とする。ヒントとは食い違っているが,間違いだというわけではないので。
現代社会おける自由譲渡の例を出して,商品交換無しの私的所有の例を出した人もいる。システムそのものの必然性として位置付けられているわけではないのですが,まぁ間違いではないので,これも若干の減点の上で正解とする。
交換によらない私的所有の例として前近代における略奪による私的所有を挙げた人もいる。略奪による私的所有は,略奪された側は私的所有としては承認していない。まぁ,一つの例ということで,大幅減点だけで済ませた。
交換によらない私的所有の例として,売れない生産物を生産したという例を出した人もいた。これは個々の事例であって,しかるに問題が要求しているのは社会の必然性である。しかも,この場合には,せっかく生産した生産物の所有は交換において他者によって承認されていない。この回答は基本的に不正解とし,内容がいい場合にはほんの少しおまけを付けた。
非対応な例として奴隷制を出した人が数多くいたが,これはベクトルが違うので,基本的に不正解である。そもそも奴隷制は商品を生産するとは限らないのだが,この点を度外視して,奴隷制商品生産の場合を考えてみよう。このばあいには,形式上,商品を生産するのも,生産手段やこの商品を私的に所有しているのも,奴隷主であって,そういう意味では,商品交換と(私的)所有とは対応している。奴隷は,最も典型的な形態においては,物言う道具でしかないから,生産手段をも生産物(商品)をも私的に所有していない。
世界市場における資本運動の世界化(グローバル化)が一国の経済政策的な枠組みを乗り越えているということを,現実資本の世界化と貨幣資本の世界化との双方について,具体例を挙げて説明せよ。
ヒント:これは,講義で提示した理論を日々の経済的なトピックスに当てはめる応用問題である。資本の世界化については,講義での理論的説明に従うこと。これに対して,具体例として取り挙げるべき一国の政策的な枠組みは講義で挙げたものでなくてよい。すなわち,財政政策(徴税を含む)・金融政策・労働政策・競争政策等,任意のものでいい。
資本主義の発展は一国の枠組みを超えるような資本の発展をもたらした。
現実資本は,いまや全体最適を追求して個別資本の内部で国際的分業を行うような超国籍企業(グローバル企業)という形で世界化を達成している。超国籍企業は,例えば,……〔具体例については省略〕
貨幣資本はすでに常に利潤を追求して瞬間的に世界を駆け回るような国際的投機マネーという形で世界化を達成している。国際的投機マネーは,例えば……〔具体例については省略〕
政策の例については,どの政策についても,具体例を出すことができる。今日,主要先進国で政策協調が必要とされているということ自体,一国レベルでの経済政策の限界を如実に表している。現実資本の運動について言うと,例えばビデオでは,課税が失敗するということを見た。現実資本から分離した貨幣資本の運動について言うと,例えばトービン税で投機を制限しようとしても,一国レベルでは必ず失敗する(海外に投機マネーが逃げていくだけである)。
具体例としての租税回避については,貨幣資本の例(金融会社)としても現実資本の例としても正解である。
講義では,産業・商業に携わるグローバル企業を想定していた。金融会社は,それ自体としては,現実資本である(現実資本として,自社が雇用した従業員と,自社が投資したコンピュータとか店舗とかを使ってビジネスを行っている)。但し,金融会社が扱っている投機マネー,金融商品は現実資本から分離した貨幣資本である。この点の区別は必要である。
また,租税回避自体について言うと,単に企業(現実資本)の租税回避だけではなく,投機マネー自体が租税回避的な行動を取っている。
ともあれ,現実資本と貨幣資本との両方の説明が必要である。現実資本の世界化と貨幣資本の世界化とを区別せずにごっちゃにした回答は,片方だけの答案とみなす。
具体例として量的金融緩和を挙げた答案について。量的金融緩和そのものではなく,例えば,アメリカが金融緩和していないのに,日本だけが金融緩和した場合にどういう問題が生じるのか,などを考えて,一国金融政策の限界について述べるのが正解である。そうではなく,このような限界とは無関係に,漫然と量的金融緩和を具体例としてあげるのは不正解である。
貨幣資本に関する一国政策の限界の具体例として,サブプライム危機に対する対応を挙げた答案について。もちろん,それを題材に取り上げても構わない。その場合にも,あくまでも一国的対応の限界に留意すること。
期待利潤率の均等化作用においてに果たす銀行制度の役割を,具体例を挙げて説明せよ。
ヒント:具体例は,部門間での期待利潤率の不均等から出発し,その均等化のプロセスを述べ,このプロセスにおいて果たす銀行制度の役割を述べること。具体例は,一般均衡ではなく,二部門間での部分均衡で説明して構わない。また,中央銀行の役割は無視して構わない。
期待利潤率が部門ごとに異なる場合に,部門間競争によって,ヨリ高い利潤率を求めて,利潤率が低い部門から利潤率が高い部門に資本が移動しする。
〔こうして,利潤率が高い部門にはより多い生産手段・労働力が配分され,低い部門にはより少ない生産手段・労働力が配分される。こうしてまた,前者では供給が増大し,商品の市場価値が下落し,それに連れて期待利潤率は下落していき,後者では供給が減少し,それに連れて期待利潤率は上昇していく。こうして,やがては部門ごとでの利潤率の相違は解消する傾向にある。──この段落はなくても良い〕
しかしまた,このような資本の部門間移動は直接的に現物形態で,つまり生産手段・労働力の再配分として,行われるわけではない。例えば,……〔具体例については省略〕
そうではなく,直接的には貨幣資本の再配分が生じ,これを通じて間接的に生産手段・労働力の再配分が達成される。その際に,貨幣資本の再配分を媒介するのが銀行制度の役割である。銀行制度は預金形態で社会の貨幣を集中し,また貸出を通じて預金形態で貨幣を創造する。そして,銀行は企業への貸付業務を通じて社会の貨幣を利潤率が低い部門から利潤率が高い部門に移動させるのである。例えば,……〔具体例については省略〕
この役割は銀行が預金形態で社会の貨幣資本を集中しているということから生じる基本的な役割であって,たとえ信用創造を行っていなくても生じる。従って,信用創造については一言も触れていなくても全く減点しない。もっとも,信用創造について触れた答案の中で,出来がいいものにはボーナス点を与えた。
模範解答では私的所有の制限性の問題は明示的には書いていないが,この点を正しく強調した答案にはボーナス点を与えた。
どの部門について資金需要が増えているのか,従ってどの部門に銀行が貸し付けるのかについて,基本的な点が間違っている答案がかなりあった。商品供給に対して商品需要が強く,したがって部門の期待利潤率が高くなってしまっている(他の部門に比較して超過利潤が生じている)ような部門においては,資金需要も増えている。従って,追加的資金供給がないままだとこの部門では利子率が高くなっている(そして,この部門に生じている超過利潤はこの高い利子率を十分にペイする)。銀行は,そういう部門に貸し付けるということによって,資本の部門間移動を助ける。
所有と機能との分離による私的所有という制限の克服について,貸付資本の成立だけではどのような不十分な点が残り,この不十分な点を株式会社がどのように克服しているのか,具体例を挙げて説明せよ。
ヒント:不十分な点の各々について具体例を挙げれば,それに即して株式会社における不十分な点の克服を説明することができるだろう。
貸付資本が成立しただけでは,まだ所有と機能との分離が不完全である。
〔人格について:〕貸付資本においては,なるほど貨幣資本を所有していなくても,経営の能力とリスクを負担する意思とがあれば,借入によって資本を機能させることが可能になっている。しかし,依然として,機能者は所有者でなければならず,また機能者の能力はシステムとして検証されているわけではない。例えば,……〔具体例については省略〕
これに対して,株式会社においては専門的経営者はもはや資本の私的所有社であるということと全く条件としておらず,またその能力は株主総会を通じて形式的に検証される。
〔物件について:〕貸付資本においでは,なるほど貨幣資本が個人の私的所有物であるという制限は克服された。しかし,機能資本家が利用するのは他人の貨幣資本ではあっても,まだ社会の貨幣資本だとは言えない。〔そして,貨幣資本を所有している貨幣資本家も,他の機能資本家にすぎない。──この文はなくても良い。〕例えば,……〔具体例については省略〕。
これに対して,株式会社においては,株式会社は〔持分の分割と機関投資家とによって〕社会のあらゆる階層の貨幣を自らに集中させる。
無限責任か有限責任かについて書かれた答案は,「人格に即して(所有に即して)」の方に関わっている。要するに,出資者(資本家)の側から見ると,無責任だからこそ金を出しやすい。この観点から採点した(若干減点した)。
経営者の収入が利潤か賃金かについて書かれた答案はギリギリ「物件に即して(機能に即して)」にかすっている。要するに,資本を所有しているのかに関わりなく能力で経営者を選んだ結果が能力および業績に対する報酬,すなわち賃金である。しかし,ギリギリかすっているだけなので,それほど高い点は付けない(かなり減点した)。
返済の必要性の有無(有利子負債か資本か)について書かれた答案はギリギリ,「人格に即して(所有に即して)」の方に関わっている。要するに,資本(会社)の側から見ると,返済の必要性を顧慮することなく,株式形態で社会から金を集めることができる。この観点から採点した。しかし,ギリギリかすっているだけなので,それほど高い点は付けない(かなり減点した)。