1. 注意事項


2. 詳細

以下の問題のすべてに答えよ。その際に,どこまでがどの問題の解答なのか,わかるように,必ず解答用紙に解答番号を明記すること。(1問18点,計72点満点)

[1](労働一般)

問題

労働の二契機(構想の実現と意志への従属)を,具体例を挙げて説明せよ。

解答例

構想の実現:生産する前に,あらかじめ,頭の中で結果=生産物を先取りして,そこから,既存の知識を応用して,材料・手順・予定等を決めていく。〔具体例については省略〕

意志への従属:生産している間は,自分の意志を形成して,この意志の下に,自分自身も,対象もすべて服させる。〔具体例については省略〕

チェックポイント
  • 構想の実現
    • 説明(4点)
    • 例(5点)
  • 意志への従属
    • 説明(4点)
    • 例(5点)

[2](市場社会)

問題

具体例を挙げて,交換の必然性を生産関係によって根拠付けよ。

解答例

生産において諸人格が結んでいる関係が生産関係である。市場社会においては,生産者たちは商品生産関係を結んでいる。

この関係においては,生産者は,たまたま余ったものを市場で交換するのではなく,既に最初からすべての生産物を市場向けに生産している。そして,そのために必要な生産手段もすべて市場で購買している。それ故に,市場で商品を交換しないと,生産が成り立たない。逆に言うと,商品生産関係が成立しているから,商品交換は必然的である。例えば,〔具体例については省略〕

チェックポイント
  • 生産関係そのもの(5点)
  • 生産と交換との関連(5点)
  • 例(8点)
別解。

以下の論拠は,現代市場社会における交換の必然性の論拠としては十分ではないから,正解ではない。その上で,一定の得点を認めることにした。

  • 社会的分業が成立しているからというロジック。(10点:具体例が正しい場合)

    • コメント:惜しいのだが,『3. 労働と社会』で見たように,社会的分業そのものは商品交換がなくても実現可能である。直接的には商品交換の一環をなしていないような私的労働が社会的労働の一環として実現されなければならないということ──つまり私的労働と社会的分業との対立──が商品生産関係の問題である。

  • 生産を効率化するからというロジック。(4点:具体例が正しい場合)

    • コメント:確かに,『1』および『4』で見たように,商品交換を前提することで,また商品交換によって媒介されて,生産が効率化される;そして,それが市場社会の歴史的意義でもある。しかし,今日の市場社会において,何故に交換が行われているのかと言うと,効率化されようとされまいと,交換が行なわれなければ人々が生きていけないからである。

  • 賃金労働者は生産手段を持っていないからというロジック。(4点)

    • コメント:これは資本主義社会における賃金労働者にとっての交換の必然性としては正しい;また,それだけではなく,このような資本主義社会の特殊的必然性によって,後述する市場社会の一般的必然性も実現される。しかし,ヒントに「市場社会においては,商品交換はたまたま起きるものではなく,選択の余地がないものでした。それを説明してください」と書かれているように,ここでは,現代市場社会一般における交換の一般的な必然性を答えてもらうのが主旨である。

  • 生産物を持っていないからというロジック(2点)

    • コメント:生産物を持っていたら交換しないのか?ということになります。そうではなく,交換のための生産物を持っているが,欲求のための生産物を持っていないから交換するのである。

  • 生産物が余ったからというロジック(2点)

    • コメント:余ったから交換するというのは前近代的共同体における補完的市場の現実である。

  • 欲望があるからというロジック(1点)

    • コメント:欲望があるからと言って,交換するとは限らない。一方では,前近代的共同体では百姓は米が食べたいという欲望を自分自身で米を生産することで満たしていたし,他方では,現代的社会の商品生産関係の下ではどれほど欲望があろうと無一文では欲望を満たすことができない。これにたいして,商品生産関係において欲望を実現するのが商品交換である。


[3](新生産方法の普及)

問題

新生産方法導入の帰結を,1つの資本主義的営利企業から出発して社会全体への影響に至るまで,具体例を挙げて説明せよ。

解答例

〔以下の三つのレベルに分けて説明しているということが正解の条件〕

  1. 一企業のレベル:超過利潤を求めて,新生産方法を導入。

  2. 一生産部面のレベル:新生産方法の普及をつうじての部面全体での商品の市場価値の低下。

  3. 社会全体のレベル:当該部面での商品の市場価値の低下に起因する,部面を問わないような影響。すなわち,生活水準を低下させない形での労働力の価値低下=利潤の相対的増大

チェックポイント
  • 一企業のレベル(3点)
  • 一生産部面のレベル(3点)
  • 社会全体のレベル(6点)
  • 具体例(6点)
追記

社会全体への影響から,逆算的に記述してあればOK。つまり,企業や部面については,利潤の相対的増大=労働力の価値低下という結果に必要な記述だけでいい。


[4](教育と技術革新)

問題

企業の外部での教育システムと現代的産業との関係を,具体例を挙げて述べよ。

解答例
  1. 現代的産業においては,労働者自身に科学的知識が必要になってくるということ
    • 現代的産業の主要な生産力要因は科学的知識の意識的・計画的応用である。

    • 〔それはさしあたって機械設備という形で,労働者の外にある労働手段に応用されるが,やがては〕労働者それ自身に,科学的知識が必要になってくる。

  2. 基礎的な科学的知識は企業の外部の教育システムで教育されるということ
    • 科学的知識は,公開されており,経験ではなく教育を通じて,だれでもこれを入手することができる。

    • 科学的知識は体系的であり,そのほとんどは特定の企業にだけ必要であるというものではなく,どこの企業においても使い回しが聞く。

    • 労働力の自由な売買を前提する限りでは,基本的に企業負担による企業内教育では科学的知識の教育コストを回収することができない(持ち逃げ,ただのり)。

    • 従って,企業の外部に,教育システムが独自の産業として形成される。特に,基礎的な科学的知識については公共的な性格を持つ教育機関で教育される。

チェックポイント
  • 産業と知識との関係(4点)
  • 産業と教育との関係(含む知識と教育との関係)(8点)
  • 具体例(6点)