どの問題も,講義で説明したものばかりです。
論述問題の模範解答はベストの解答ってわけじゃありません。満点を取るための最低限の解答ってことです。
以下の問題のすべてに答えよ。その際に,どこまでがどの問題の解答なのか,わかるように,必ず解答用紙に解答番号を明記すること。(1問18点,計72点満点)
労働の媒介性について,“手段”に着目して,3つのレベルに分けて説明せよ。その上で,それぞれについて,具体例を挙げよ。
〔この段落はなくても構わない。〕労働は対象をプロダクト(生産物)に変換するという形で自分で目的を立てる行為である。労働の媒介性は,ここでは,この意識された自己目的にとって,すべてのものを手段にするという形で現れる。
本来,媒介性そのものの区別と,同種の媒介性の発展による効率化(生産力の発展)とは区別されなければならない。例えば,自分自身を手段にしているということと,自分自身の労働力の発展によって生産力が発展するということとは区別されなければならない。後者は正解にした上で減点した。
「協業,分業,科学的知識の意識的・計画的適用」と書かれた答案が複数あった。同じような答案であっても,内容に応じて,1点から6点まで採点が分かれた。内容に応じてと言うのは,(1)目的に対する手段だということが明確になっているか,(2)(それと関連するが)媒介性の区別だということが明確になっているか(簡単に言うと生産力の発展と関連づけられているか),(3)科学的知識の意識的・計画的適用の中心が機械設備という労働手段による生産力の発展だということが明確になっているか,がチェックポイントになったということである。
市場社会の特徴の中でグローバル性に着目して,それが経済的な社会形成一般をどのように実現したものなのか,説明せよ。
そもそも,経済的な社会形成をもたらすのは労働における経済的な利益の一致である。逆に言うと,そもそも経済的な社会形成は,もし利益の一致(=物質代謝の効率的運営)さえあれば,地縁・血縁に制約されずに,グローバルに展開するというポテンシャルを持っている。しかしまた,前近代的な共同体では,政治的等々の制約から,このポテンシャルは十分に発揮されなかった。
これに対して,市場社会は,前近代的な共同体においては補完物でしかなかった市場が社会全体を支配するということを通じて,グローバルな社会形成を達成している。と言うのも,市場社会を形成する構成要素である商品交換はただ利益の一致にのみに基づく,政治的等々のローカルな制約から切り離された,純粋に経済的な関係だからである。
しかしまた,このような商品交換を通じての社会形成は上記のポテンシャルの完全な実現ではない。何故ならば,この社会形成は,社会的な労働の生産関係の一契機を,私的な交換関係として,前者そのものから切り離すということによって実現されたからである。したがって,そもそも社会形成の原理は自覚性にあったが,市場社会においては,二者の交換関係そのものは確かに自覚的に形成されたが,しかし全体としての市場社会は単なる二者の交換関係の総和,単なる結果であって,構成員の自覚的な承認を経ていない。そして,私的交換の原因であり,社会的分業の一環として実現される私的労働は自覚的な承認からは切り離されている。
資本主義社会として初めてグローバル化が達成されるというのは問題の解答にはなっていないが,把握としては正しい(政治経済学2で詳説)から,それについてはやや甘めに採点した。
国内から国外への市場の拡大(グローバル性ではなく,グローバル化)という観点で書かれた答案については,市場社会と言った時にすでにグローバルな社会が想定されているから,間違いだが,やや甘めに採点した。
同レベルの企業から構成される生産部門における単一の新生産方法の普及だけを想定せよ。普及率が0%から始まり100%になるまで続く場合を想定し,普及率と,市場価値と,革新的企業が獲得する超過利潤との推移について説明せよ。
〔出発点〕この商品を生産する企業を,当該新生産方法を導入した革新的企業と,まだ導入していない従来型企業とに分ける。当該新生産方法の普及率が0%から始まると仮定する限り,最初は,市場価値は従来型企業の企業内価値である。これにたいして,革新的企業は,従来型企業よりも安い企業内価値で商品を生産することができる。こうして,革新的企業は,通常の期待利潤に加えて,革新的企業の企業内価値と市場価値との差額を超過利潤として獲得することができる。初期値としては,この超過利潤は革新的企業の企業内価値と従来型企業の企業内価値との差額に等しい。
〔途中経過〕やがては,このような超過利潤を獲得するために,従来型企業が新生産方法を導入して革新的企業になってていく。コスト的・リスク的要因から,すべての従来型企業が同時に革新的企業になるのは困難だが,普及率が高まるのにつれて,市場価値が,そしてそれにともなって超過利潤も,急速に低下する。
〔帰結〕当該新生産方法の普及のプロセスが普及率が100%になるまで続くと仮定する限り,やがては市場価値は革新的企業の企業内価値に近付いていく。それにともなって,革新的企業が獲得する超過利潤はゼロに近付いていく。
複雑労働が一般にどのようなものか説明し,職人的(半芸術的)生産の場合と,科学的知識の意識的・計画的適用の場合とで,それぞれそれがどのような典型的形態をとるのか説明せよ。
複雑労働とは,文字通り,個人が発揮するひとまとまりの具体的労働の内容が複雑である(つまり単純ではない)ような労働のことである。複雑労働を行うためには,労働力がそれを行うだけ発達していなければならない(複雑労働力になっていなければならない)。そして,通常は,労働を行う前に,当該労働とは別のコストを掛けてこの労働力を育成しなければならない。また,多くの場合に,複雑労働と単純労働とは分業の異なる部門として現れる。
職人的(半芸術的)生産の場合には,数多くの,一連の分割不可能(分業不可能な)なオペレーションを含んだ労働として現れる。それはまた比較的長期に亘る修行期間を要するだけではなく,日々の当該労働の繰り返しの中で体得すべきものである。したがって,この場合の複雑労働は熟練労働と一体のものである。
科学的知識の意識的・計画的適用の場合には,そのような生産様式に適合した──特に科学的知識が適用された労働手段である機械設備に適合した──科学的知識を持った複雑労働,いわゆる知識労働が必要とされる。科学的知識はさまざまな部門に適用可能な普遍的・体系的な知識であって,その基礎的な部分は実際の適用である当該労働からは独立している。また,それは公開された知識であって,当該労働の中で体得すべきものではない。それゆえに,その発見はともかくその習得は,当該労働が行なわれる前に,学習という形で行なわれる。それは,熟練の解体の結果として生まれ,そしてまた更なる熟練解体の原因になるものである。