このページは,立教大学 経済学部 政治経済学1の2014年度の定期試験(2014年07月24日実施)の模範解答のページです。
どの問題も,講義で説明したものばかりです。
論述問題の模範解答はベストの解答ってわけじゃありません。採点する際の最低限のチェックポイントを明示しています。
論述問題の模範解答はベストの解答ってわけじゃありません。採点する際の最低限のチェックポイントを明示しています。
論述問題の採点は,チェックポイントを決めて,減点法でやっています。つまり,チェックポイントがクリアできていれば減点なし,クリアできていなければ減点ってことですもちろん,チェックポイント以外にも間違った記述があればさらに減点することになります。また,目の付け所がいい記述があったら,点数をおまけすることがあります。
以下の問題のすべてに答えよ。その際に,どこまでがどの問題の解答なのか,わかるように,必ず解答用紙に解答番号を明記すること。(1問18点,計72点満点)
人間と自然との関係を想定して(つまり社会的自由についてはこれを捨象して),人間の労働における自由と必然性との関係を,具体例を挙げて説明せよ。
動物とは違って,人間は,自然の必然性に逆らうのでもなく,自然の必然性に埋没するのでもなく,労働によって,自然の必然性を認識し,それとともにまた,自然の必然性を自分の自由意志で,自由自在に,自分の目的に適合するように,実現する。
〔具体例は省略。動物と違う人間の特徴の一つであるという点,労働がこの特徴を生み出しているという点,自然法則を認識するという点,自然法則を実現するという点──これらすべてが書かれていること。〕
職業選択の自由や営業の自由は社会的自由であって,この設問が要求する解答ではない。また,あからさまに社会的自由を書いた答案は,ヒントを無視しているから,やや厳しく評価した。
『2. 人間と労働』の全体,特に「1.2 意志への従属」のセクション,ピンポイントには「必然性の実現としての自由」のスライド。
完全な自由競争と,価格を低下させるような新生産方法と,途中から新生産方法の普及が加速するような普及モデルとを想定して,普及の加速の過程を具体的に説明せよ。
革新的が利潤を最大化するように,少しだけ市場価格より安価に商品を提供する〔これは価格調整的アプローチ。あるいは,供給量が増えたから価格が減少するという数量調整的アプローチでも可。あるいは,価格調整的アプローチと数量調整的アプローチとの両者を書いても可。講義の中では両方のアプローチを統合した説明をしていた〕。そうすると,市場価値は低下し,それによって最初は超過利潤の獲得によって利潤を最大化するというポジティブな理由から,やがては利潤の減少を回避するというネガティブな理由から,革新的企業の数が増えていく。最初はその効果は小さいものであっても,だんだんと,ますます革新的企業が増えるとますます価格が下落し,ますます価格が下落すると更に一層急激に革新的企業が増えていくという加速的なプロセスをたどる。
このプロセスを詳しく説明してもらえれば可。もちろん,具体例を挙げてもらっても可。グラフを使って説明してもらっても可(ただし,グラフだけで文章による説明がないものは不可)。)
実際には,上の二つのチェックポイントに漏れた記述についての調整点としても利用した(つまり,そういう記述をも具体的記述としてみなした)。
重要なのは,(1)市場での競争という条件と(2)革新的企業の振る舞い。要するに,(1)市場社会の原理と,(2)資本主義社会の原理との統合。その両方に触れていること。
『6. 生産力の上昇』の「2.2 普及というプロセス」のセクション,ピンポイントには「普及の加速」のスライド
企業内協業の利点の実現と企業内分業との関係を,具体例を挙げて説明せよ。その際に,単純協業と分業に基づく協業というキーワードを使うこと。
分業という生産力要因が導入されていない単純協業という生産様式においても,協業という生産力要因の利点は発生する。しかし,協業の利点が十分に発揮されるのは,分業が導入された分業に基づく協業という生産様式においてである。逆に言うと,分業に基づく協業において発揮される分業の利点の多くは協業の利点,すなわち協力しあうということから生じる利点である。
〔具体例は省略。〕
『7. イノベーションの構成要素(1)』全体,ピンポイントには「分業の利点」のスライド。
(1) 具体的労働の種類,(2) 育成,(3) インセンティブという点での,(a) 複雑・単純労働と(b) 熟練・不熟練労働との典型的な違いを,具体例を挙げて説明せよ。
(a)複雑労働と単純労働との違いは通常は異なる具体的労働において生じる。これに対して,(b)熟練労働と不熟練労働との違いは通常は同じ具体的労働において生じる。
(a)複雑労働として発揮されるためには通常は労働する前に事前の労働力育成が必要である。(b)熟練労働として発揮されるためには通常は繰り返し労働する中での熟練労働力の育成が必要である。
上記2より,(a)より複雑な労働を発揮する労働力はより単純な労働を発揮する労働力よりも〔一言で「複雑労働力は」でも可〕,労働過程の外での育成費を必要とする分,価値の高さで報われる〔「基本給の高さで報われる」等でも可〕。(b)より熟練した労働を発揮する労働力はより不熟練な労働力を発揮する労働力よりも〔一言で「熟練労働力は」でも可〕量的に多くの業績を上げるから,出来高賃金の違いで報われる。
試験会場で最も質問が多かった問題である。問題を呼んでみてもらえばわかるように,aとbとの違いを説明してもらう問題である。その趣旨は,要するに,講義スライドに出ているように,複雑労働と熟練労働との違いを答えてもらうということである。で,それを実際に文にすると,特に違いの(1)において,(a)複雑労働と単純労働との違い,また(b)熟練労働と不熟練労働との違いに触れることになる。だから,出題のような文章になっている。
そして,リアクションペーパーにもこの点に関する疑問があり,私もそれに答えたが,複雑労働と熟練労働とは互いを互いから排除し合う関係ではない。つまり,複雑な熟練労働というのもある。互いを排除し合うのは(a)より複雑な労働と単純な労働とであり,また,(b)より熟練した労働とより不熟練な労働とである。で,ただし,そのルールが(a)グループのルールと(b)グループのルールとが違っており,それを答えよというのがこの出題の意図である。
もう一点。講義内でも強調したが,この解答に当てはまらないような例外なんていくらでもある。例外ではなく,原則=典型を答えるということが「典型的な違い」を答えよという出題文の主旨である。
『5. 資本主義社会のイメージ』の「2. 熟練・複雑・高い強度の労働」のセクション全体を参照。また,具体例としては『7. イノベーションの構成要素(1)』および『7. イノベーションの構成要素(2)』をも参照。