1. 注意事項


2. 詳細

以下の問題のすべてに答えよ。その際に,どこまでがどの問題の解答なのか,わかるように,必ず解答用紙に解答番号を明記すること。(1問18点,計72点満点)

[1](知識)

問題

どの人類社会にも共通な経済活動を念頭に置いて,労働と知識との関連を,具体例を挙げて説明せよ。

解答例

そもそも,労働において,個人は,対象に対して,本能的にではなく,自覚的に振る舞う。それ故に,この個人は,対象を取得する時に,意識の中に取得する。こうして成立する意識と対象との統一が知識である。それ故に,何よりも先ず,労働は知識を産出する。この面から見ると,労働は知識の原因である。例えば,……〔具体例は省略〕こちらが根源的な契機である。

しかも,自覚的・意図的な,わざわざ行う振る舞いであるからこそ,この個人は労働をできるだけ効率的に遂行しようとするし,もちろん,この効率化も自覚的・意識的に達成される。それ故に,この個人は,ひとたび産出された知識を,効率化の目的のために,労働において必然的に適用する。この面から見ると,労働は知識の結果である。例えば,……〔具体例は省略〕こちらが派生的な契機である。

追記

一応,講義の中では力を入れて説明したつもりなのだが,私の説明の仕方が悪かったのか,知識と労働とは相互前提の関係にあるから,どちらが根源的なのかは不定であるという印象を学生の皆さんに持たれたっぽい。或る程度発展した人間の労働は総て知識の適用であって,それと同時に知識の産出でもある。従って,両者は相互前提しているのだが,この相互前提を分析してみると,“じゃ,適用されるべき知識はどこから来るのよ”ということになる。

チェックポイント
  • 理論(産出と適用)(8点)
  • 具体例(10点)

[2](自由)

問題

経済活動における社会的な自由の成立について,どの人類社会にも共通なレベルと市場社会のレベルとに分けて,両者の関連を説明せよ。

解答例

〔そもそも労働による個人の形成において,人間は自然に埋没せず,単なる本能的存在でもなく,自分の自由意思に基づいて行為しているのであって,この意味で自由な主体である。とは言っても,この自由はまだ他者から承認されたわけではない野であって,その意味では社会的な自由になっていない。他者から,そしてそれを通じて社会からその自由が承認されるということによって,労働は社会的自由を実現する。──この段落に相当する箇所が答案になくても減点しない〕

どの人類社会においても,根源的には,たがいに自由意思を持つ個人同士が利益の一致に基づいて自由な共通意思(合意)で社会を形成する──つまり自由な個人として社会を形成する──というのが労働による社会形成の原理である。とは言っても,前近代においては,──市場がないと仮定する限りでは──,このような労働の潜在能力は十分に実現されえず,なお個人は共同体に埋没していた。

これに対して,個人が共同体から切り離された市場社会──市場が社会の(一部ではなく)全体をカバーした社会──としての現代社会おいて初めて,形式的には(つまり実質的に自由であるのかどうかは別にして),このような自由な社会形成が実現されている。すなわち,市場としての現代社会においては,労働過程におけるこのような社会的自由の契機は──もちろん労働過程で発生するのだが,しかし労働過程そのものでは実現されずに──,労働過程から切り離された交換過程において,社会的に自由な人格として相互的に承認しあう。この相互的承認の連鎖によって,市場社会の内部で各人格は形式的には自由な人格として実現されている。

追記

え?相手の自由なんてたたきつぶして自分の利益を追求すればいいって?自由は野放図な自由になるって?社会全体のレベルで考えるとそれができないから相互的承認が必要になる。自分の自由を実現するために他者(相手)の自由を実現する。逆に言うと,他者(相手)の自由を実現するということによって自分自身の自由を実現する。要するに,もともと他人の権利を侵さないことで自分の権利を実現している。

チェックポイント
  • 労働過程での発生(8点)
  • 交換過程での実現(10点)

[3](熟練)

問題

熟練形成について,職人的(半芸術的)な熟練形成と資本主義的なそれとの違いを,説明せよ。その際に,より単純な労働,より複雑な労働というキーワードを必ず使うこと。

解答例

作業の繰り返しの中で,経験と創意工夫によってより個人的生産力が高くなったのが熟練労働力であり,その発揮が熟練労働である。職人的な熟練労働力は社会的分業だけを前提し,資本主義的な熟練労働力はそれに加えて企業内分業を前提する。一般に,社会的分業よりも企業内分業の方が細分化されている。

企業内分業の場合には,細分化には制限がないのであって,部分労働者が生産するのは独立の商品として市場で販売することができないような,部品であっても構わない。このように社会的労働がより細分化されるということによって,個人的労働は単純化する。より単純な労働であるからこそ,たとえ単なるオン・ザ・ジョブでの作業の繰り返しだけであったとしても,十分な熟練労働力が形成されるのである。

これに対して,市場で販売される商品を生産すると言うことが,社会的分業の細分化の絶対的な限界をなす。それ故に,職人的な熟練労働力の場合には,より複雑な労働のままで,その繰り返しによって熟練が形成される。より複雑な労働であるから,オン・ザ・ジョブでの作業の繰り返し以上に,オフ・ザ・ジョブでの特別の育成のウェイトが高くなる。

追記

現代的産業では複雑労働が主流なのだから,資本主義的分業でも複雑労働が主流なのでは?いや,そうではない。科学的知識が必要だという点では複雑労働が主流である。しかし,それはあくまでも知識労働の形成であって,熟練労働の形成ではない。昔の資本主義的生産であったマニュファクチュアにおいてはもちろん,現代的産業においても熟練が形成されるとしたら,企業内分業で作業が単純化されているからである。

チェックポイント
  • 熟練の説明(4点)
  • 分業との関連性(4点)
  • 複雑・単純労働との関連性(キーワードの使用)(10点)

[4](テクノロジー)

問題

テクノロジーとテクニックとの違いを,具体例を挙げて説明せよ。

解答例

経済的に見て,テクニック(技能)は個人が労働する際の技(やり方)である。その技は経験的知識だろうと科学的知識だろうと,個人が獲得した知識であって,その知識が属人的に労働力の変化と一体化している(熟練労働力・複雑労働力)。例えば,……〔具体例は省略〕

これに対して,経済的に見て,テクノロジー(科学技術)は,社会に公開・共有されている科学的知識の意識的・計画的な適用である。このような知識が適用される際に物的形態──何よりも先ず機械設備という形態──をとる。例えば,……〔具体例は省略〕

追記
  • もちろん,科学的知識は社会的労働編成や個人の能力開発にも応用可能なのだが,その場合にもあくまでもそれらの外から,つまり物としてのそれらに応用されている。そして,この場合において,個人の外にあるテクノロジーは,個人的労働力と一体化すると,テクニックになる。

  • 説明が下手だったのか,科学的知識と経験的知識との違いと混同している答案があった。科学的知識だろうと経験的知識だろうと,個人が手に入れて技として活かせばテクニックである。
  • 試験会場で配布したヒントはちょっと失敗した。こちらとしては用語としてこの文ではテクニック,あの分ではテクノロジーという感じで置き換え不可能という意味だった。つまり,テクニックという言葉とテクノロジーという言葉とが置き換え不可能という意味だった。しかし,テクニックという現実とテクノロジーという現実とが置き換え不可能という意味にとった人がいた。
チェックポイント
  • 具体例(8点)
  • 両者の違い:10点(社会的・個人的5点,人的・物的5点)