1. 注意事項


2. 詳細

以下の問題のすべてに答えよ。その際に,どこまでがどの問題の解答なのか,わかるように,必ず解答用紙に解答番号を明記すること。

[1](所有一般)

問題

人間しか行わない,また人間ならどの時代でも行っているような所有一般と,動物でさえ行っているような単なる対象支配との形態的区別について説明せよ。

解答例

一言で言うと,動物の対象支配と人間の所有との形態的区別は,何らかのレベルでの社会が媒介しているかどうかの区別である。どのような社会においても,どのような所有形態においても,それは社会によって認められたものである。だからこそ,それは直接的な支配から相対的に自立化するようになる。

前近代的共同体においては,個人が意識的に形成した社会という形式が十分に成立していたわけではない。しかし,それでもなお,所有は共同体によって媒介されていたのであって,共同体の構成メンバーが所有の帰属を意識的に受け容れているということは共同体への帰属を受け容れているということを意味した。

市場社会においては,原理的に土地を含むすべての対象が市場で流通可能になっている。そして,市場では自由・平等な個人が意識的に社会関係を形成し,その際に私的所有者として相互的に承認しあってている。このことによって,市場社会では,動物の本能的な集団形成とは違う人格の意識的な社会形成によって,あらゆる対象に対する所有が社会的に位置付けられている。


[2]貸付資本

問題

全資本を借入で充当しているような個人企業を想定する。この場合に,この資本の運動を私的所有という観点から特徴づけよ。その際に,現実資本,貨幣資本,法律的所有,経済的所有というキーワードを用いること。

解答例

誰の所有物であるのかということとは独立に,資本は,その貨幣形態と実物形態とを交替しながら,それ自身の増殖運動を行っている。この物件(つまり資本)の増殖運動を人格(つまり私的所有者)の単位で媒介し,正当化するのが私的所有の役割である。ところが,出題の場合には,私的所有そのものが分裂している。

すなわち,この場合には,資本の形態変換運動の各部分に分けて考えると,貸し出された貨幣資本については,その私的所有権をもっているのは貸し手の方である。しかし,この貨幣資本の支出によって購買した現実資本については,その私的所有権をもっているのは借り手の方である。

資本の形態変換運動の全体にまとめて考えると,貸し手が元資本の全部について利子付きで自分のものとして返還されるという意味では,この資本の法律的所有つまり名目上の所有は貸し手に属する。これに対して,ひとたび借り入れたならば借り手がそれで生産手段と労働力とを自分のものとして購買し,その結果として生じる利潤も自分のものとして入手しているという意味では,この資本の経済的的所有つまり実質上の所有は貸し手借り手に属する。


[3](株式会社その1)

てんかい
問題

所有と機能との分離について,機能が所有から分離するという側面と,所有が機能から分離するという側面とから,説明せよ。

解答例

労働と所有との分離は資本機能と資本所有との分離として展開する。そして,資本機能と資本所有とのこのような分離は株式会社において完成する。

一方では,この分離は所有から機能が分離するということである。すなわち,株式会社の必然的形態においては,(会社の資産ではなく)資本そのものの私的所有者としての位置付けを持っているのは株主であって,この私的所有者は現実資本の機能から排除されている。そして,株主の所得が配当である限りでは,それは純粋な不労所得(労働に基づかない所得)である。

他方では,この分離は機能から所有が分離するということである。すなわち,株式会社の必然的形態においては,現実資本の機能を担っているのはトップマネジメントから最下層に至るまで賃金労働者の組織であって,彼らに対してに対しては会社の資産は他人の私的所有物として対立している。そして,経営者を含む労働者の所得は原理的には利潤ではなく,賃金であるのに過ぎない。しかるに利潤は原理的には彼らに対立する会社の私的所有物である。


[4](株式会社その2)

問題

以下に掲げる引用文を読め。このような考え方は株式会社の発展のどのような段階を捉えたものか,そしてそれは何故にそう言えるのかを説明せよ。

第五番目の支配形態は,〔……〕会社の諸活動を支配するに充分な少数権益を持つ個人,あるいは,小集団すら存在しないものである。単一の所有権益として最大のものが,1%足らずにしかならない場合は〔……〕一人でその株式保有量を盾に,経営者に圧力を加えるような株主もなく,また,支配に必要な過半数議決権を収集するための重要な核心として,その保有株式を利用するような株主も存在しない。

〔……〕

〔……〕これら諸会社の大部分では,支配を掌握している人々は,もはや,支配的所有者達ではない。いなむしろ,支配的所有者達などは存在しない。支配は,ほとんど所有権とは関係なしに維持されている。

解答例

株式会社の発展には,個人への株式集中の時代,個人への株式分散の時代,組織への株式集中の時代がある。引用文のような考え方は,個人への株式分散という現実を特徴づけるものである。そして,引用文の著者は,そのような現実に直面して,株式会社の現実において所有と支配とが分離しているということ,そしてその帰結としての経営者支配が行なわれているという理論を定立している。

以上の点は以下の記述からわかる。すなわち,〔引用文を用いた説明は省略〕

備考

出典:『近代株式会社と私有財産』,A.A.バーリーおよびG.C.ミーンズ著,北島忠男訳,文雅堂銀行研究社,第105頁および第142頁