このページは,立教大学 経済学部 政治経済学1の2008年度の定期試験(2008年07月22日実施)の模範解答のページです。
2008年08月11日:採点の際に用いたチェックポイントを追加。
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どの問題も,講義で説明したものばかりです。
論述問題の模範解答はベストの解答ってわけじゃありません。満点を取るための最低限の解答ってことです。
以下の設問の中で1つを選んで答えよ。どの問題を選んだのか,解答番号(アまたはイ)を明示すること。(35点)
すべての企業が一度に革新的企業になることを阻む二つの社会的要因を具体例を挙げて説明せよ。
一般に新技術は普及という時間的なプロセスを経ることになる。何故ならば,市場において資本主義的企業が競争している限り,またこの条件だけでは,すべての企業が新技術を同時に採用するということは困難だからである。その根拠としては技術的要因と社会的要因とがある。この中で社会的要因には,私企業はイノベーションのコストを私的に負担しなければならないということと,イノベーションのリスクを私的に負担しなければならないということが挙げられる。
イノベーションのコストの私的負担とは,例えば,……〔具体例は省略。講義では設備投資の償却負担の例を挙げた〕
イノベーションのリスクの私的負担とは,例えば,……〔具体例は省略。講義では,一番手企業にとっては,新しい高機能な機械設備が本当に生産性を上昇させるかは,実際に導入してみないとわからないし,またそれをうまく使うためのノウハウを蓄積するためには試行錯誤が必要だということを挙げた〕
企業内での従業員間での分業の固有のメリット(二つ)について,具体例を挙げて説明せよ。
分業において発生している生産性向上のかなりの部分は,分業そのものにではなく,協業に起因する(その意味では,協業のメリットである)。しかしまた,分業そのものに起因する生産性向上もあるのであって,これが分業の固有のメリットである。
分業の固有のメリットには,主として,労働力の熟練の形成と労働手段の細分化とがある。
分業によって細分化され単純化された作業が個人に割り当てられ,毎日まいにちそのような分業を繰り返して行うようになると,個人はその作業については専門的に熟達した能力を獲得するようになる。これが労働力の熟練の形成である。労働力の熟練の形成は,たとえば……〔具体例は省略〕
このように労働力の熟練が形成されると,労働の専門性に合わせて,労働手段も,それまでの汎用的なものから,専門的なものに変化し,カスタマイズされていく。これが労働手段の細分化である。分業における労働手段の細分化は,たとえば……〔具体例は省略〕
以下の設問の中で1つを選んで答えよ。どの問題を選んだのか,解答番号(アまたはイ)を明示すること。(35点)
(ア) 労働生産性の上昇が労働力の発達に対して与える影響について,科学的知識の意識的・計画的適用が導入されずに分業だけが導入されている場合と,科学的知識の意識的・計画的適用が導入されている場合とに分けて,述べよ。その際に,熟練労働力,複雑労働力というキーワードを必ず使うこと。
企業内分業が導入されると,労働者はそれまでと比べて単純な作業を行うことになる。このような単純な作業を繰り返し行う間に,その形成に外部的なコストがかからない熟練労働力が発展することになる。したがって,科学の応用が導入されていない場合には,熟練労働力の重要性が大きくなる。
科学の応用が導入されていない場合には,分業は個々の従業員に固定的に割り振られ,従業員は一つの労働以外は何もしなくなる。そうすると,その労働には熟練しているが,他の労働には向かないような一面的に発達した労働力が形成されてしまう。
これにたいして,科学の応用が導入されている場合には,熟練労働力は機械設備によって置き換えられ,労働力のベースは,公開・体系化された科学的知識になる。このような科学的知識は作業中に修得できるものではないく,その修得には外部的なコストがかかる。したがって,知識労働という複雑労働を行う複雑労働力の重要性が大きくなる。
科学の応用が導入されている場合には,分業は機械設備のネットワークに応じて流動的に配置される。イノベーションに応じて,分業の配置は変更され,また個別のノウハウは陳腐化する。この場合には,絶えざるイノベーションに対応できるような,公開的・体系的な知識を手に入れた,全面的に発達した労働力が要請される。
(イ) 企業内での労働組織(協業)の二つの原理(計画と権威)について説明し,それを個人の労働の二つの原理と関連づけよ。(叙述の順序としては,まず個人の労働の原理を説明し,それにもとづいて次に計画と権威を説明するのが望ましい)。
そもそも労働において人間は,第一に,実際に生産する前にすでに頭の中で生産している。そして第二に実際に生産しているあいだは自分の意志のもとに自分の力を服させ,それを通じて自分の周りにある自然の力を服させる。
そもそも労働はなんでも自分の手段にしていく行為であるから,他者の労働もまた自分の手段にし,こうして労働組織が形成されていく。自分と対象との有機的連関の範囲を拡大するこのような性質は,労働そのものの内部には限界をもたない(つまりいくらでも労働組織を拡大することができる)。
上記の二つの原理は企業内での労働組織においても新たな形態で再現される。従業員個人の労働はそれ自体が有機的な全体であって,労働組織の中でも自立性を維持する。それ故に,個人の労働を見てみると,独立した労働だろうと労働組織の一環だろうと,上記二つの原理を保持している。しかしまた,労働組織そのものがバラバラの寄せ集めではなく一つの有機的全体であって,──そして個人の労働がそこに埋没しているのではない以上──,全体の労働組織そのものにも上記二つの原理が必要になる。
個人的労働の第一の原理に対応するのが計画である。すなわち,労働組織が有機的全体として行なわれるためには,生産の前にあらかじめ,全体のゴールは何か,そしてそのゴールに向かって何をするのか,が計画として定められていなければならない。個人的労働の第二の原理に対応するのが権威である。すなわち,各従業員の意志からは独立に,各従業員を支配する全体の意志が権威として生まれ,実際の生産においてはこの権威に各従業員は従うわけである。