1. 採点基準とチェックポイント

どのレポート・感想文にも共通な採点ポイントは以下の通り。


2. 剽窃──ダメ,絶対

2.1 バレたら単位無効

剽窃が見付かった場合には,ゼロ点ではなく,マイナス点でもなく,単位を出しません

出典を明記した引用はじゃんじゃんやってOKです。ただし,自分の意見の部分が主,引用部分が従になるようにしてください。

実際に,私は,この政治経済学において,学生のレポートに剽窃を見付けて,マイナスの点を付けたことがあります。そのレポートを書いた学生はこの科目の単位を落としました。

剽窃を見付けた場合には,2012年度まではマイナス点を付けるという方針でしたが,2013年度からは単位を出さないという方針に変えます。

2.2 過失でもダメ

実際には,剽窃事件が起きる際に,ノートやメモにスクラップしておいた記事を自分の意見をまとめてみたものと勘違いしてしまったという抗弁がなされることがあります。個々の現実の事件においてその真偽はわかりませんが,一般的な可能性としてはそのようなことが絶対にないとは言い切れません。あるいは,故意ではなく,うっかりと引用符や出典を書き忘れてしまうということも,絶対にないとは言い切れないでしょう。

しかしながら,採点する側としては,剽窃が故意なのか過失なのか,判断することはできません。従って,もし剽窃の外形的事実があれば,たとえ過失であっても,私はそれを剽窃として評価するしかありません。要するに,「書き写す時にうっかりして出典と引用符を忘れてしまいました」という類の弁明は,たとえ真実であっても,受け入れずに,単位を落とします。従って,普段ノートをとる時から,外部情報資源は外部情報資源であることがわかるように自分でまとめておき,出典もノートに明記しておきましょう。

2.3 どれが剽窃?

一般に,自分だけの意見であっても,それが誰にも/何にも影響されていないということはありえません。ですから,外部情報資源はどんどん使ってください。なんの問題もありません。問題なのは,外部情報資源を自分のものだと偽ることです。

まずは次の引用文をご覧ください。

起業家熱が高まる背景には、技術革新もある。IT(情報技術)分野で顕著な現象だが、安価なクラウドサービスの登場などで、会社をつくる際の初期コストが劇的に下がった。これが起業に対するハードルを引き下げ、多くの人が「失敗してもやり直せる」と安心感を持つようになった。

この流れをさらに強くするにはどうすればいいか。ひとつは大企業が自前主義を改め、ベンチャー企業への出資や提携を積極化することだ。米シリコンバレーでは大手とベンチャーの提携が日常茶飯であり、両者の連携でイノベーションが加速するなど地域全体の競争力を高めている。日本も新興企業に門戸を閉ざさない、よりオープンな企業社会をめざしたい。『日本経済新聞』,2013/2/20付Web版社説

この記事を利用して,レポートを書く際に,自分の意見を表明するものとしましょう。その場合に,以下のようにすれば,この講義では大丈夫です。

セーフの例(引用)

IT化によるコスト削減を強調する見解もある。たとえば,日本経済新聞の社説はIT(情報技術)分野で顕著な現象だが、安価なクラウドサービスの登場などで、会社をつくる際の初期コストが劇的に下がった『日本経済新聞』,2013/2/20付Web版社説,http://www.nikkei.com/article/DGXDZO51925040Q3A220C1EA1000/と主張している

確かに,自前のサーバを使うよりはクラウドサービスの利用によってイニシャルコストは下がるだろう。しかし,企業機密の管理を含むランニングコストに着目すると,クラウドサービスの利用がかえってトータルコストを増やすこともありうるのではないか,と私は思う。

どうしてセーフなのかと言うと以下の条件が満たされているからです。。

引用部分の明示化

引用部分を鉤括弧でくくり,またそれが誰の(何の)意見なのか明示化している。

出典の呈示

引用部分の直後に,その引用のソース(出典)を明記している。

引用部分の従属化

引用を自己目的にするのではなく,あくまでも,それを評価したり批判したりすることを通じて,自分の意見・感想・主張を明確にするための材料・手段にする。自分の考えこそが大間のクロマグロであって,引用部分はツマとか山葵。

セーフの例(要約)

IT化によるコスト削減を強調する見解もある。たとえば,日本経済新聞の社説はIT化が会社をつくる際の初期コストを減少させたことによってベンチャービジネスが容易になりつつあるが,この流れをさらに進めるためにはベンチャービジネスと大企業との戦略的提携の推進が必要だという主旨のことを主張している(『日本経済新聞』,2013/2/20付Web版社説,http://www.nikkei.com/article/DGXDZO51925040Q3A220C1EA1000/)。

なるほど,イニシャルコストは下がっているかもしれない。しかし,それでも裸一貫,アイデアだけで勝負しようとすると,まだまだハードルが高いのが実情だと私は思う。したがって,ベンチャービジネスを推進するためには,やはりベンチャー向けのファイナンスのよりいっそうの充実がまだまだ必要なのではないだろうか。

基本的には,引用の場合と全く同じです。引用ではないから引用符は付いていませんが,それが要約であるということは明瞭になっています。また,出典の明記も引用部分(この場合は要約部分)の従属化も引用の場合と全く同じです。

要約部分の明示化

参照元の見解を曲解ではなく,適切に要約し,かつ自分の意見ではなく,参照元の見解であるということを明示する。

アウトの例(丸写し)

IT(情報技術)分野で顕著な現象だが、安価なクラウドサービスの登場などで、会社をつくる際の初期コストが劇的に下がった。これが起業に対するハードルを引き下げ、多くの人が「失敗してもやり直せる」と安心感を持つようになった。

完全に丸写し。論外。

アウトの例(少し変えただけ)

情報技術分野で顕著な現象であるが、安価なクラウドサービスの登場で、会社をつくる際の初期コストが劇的に下がったのだ。多くの人が安心感を持ち、気楽に起業するようになったのは、このことが起業に対するハードルを下げたからだろう。

語尾を変えたり(だ→である),語順を変えたり,表現を変えたりしているが,コピペであることは明白です。むしろ,文言を改変したことで,剽窃の故意性が明らかになっており(そのままではパクリと言われるからコソコソ手直ししたということ),丸写しよりも悪質だとさえ言えます。